岡山簡易裁判所 昭和43年(ハ)8号 判決 1969年4月17日
原告 片山深
被告 岡山県
右代表者岡山県知事 加藤武徳
右指定代理人 今田一
<ほか三名>
被告 久米南町
右代表者久米南町長 治部勲
右指定代理人 中島一郎
<ほか一名>
主文
原告の各請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告は「被告らは連帯して原告に対し金五、〇〇〇円を支払らえ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め
二、被告らは主文第一、二項と同旨の判決を求めた。
≪以下事実省略≫
理由
一、争のない事実
原告が町長選挙の効力を争い、町選管に異議の申出をなし、次いて県選管に審査の申立をなし、原告主張の日付をもって異議申出に対し棄却の決定がなされ、審査申立に対し棄却の裁決がなされたこと、右決定の要旨が原告主張のとおり告示されたこと、および町吏員横部良一が原告主張のとおり証人尋問を受けたことはいずれも被告らの認めるところであり、町選管の決定が甲第一号証の決定書によってなされたこと町掲示場に提出告示されたのが右決定書であること、県選管の裁決が甲第二号証の裁決書によってなされたこと、および岡山県公報に登載告示されたのが右裁決書であることも当事者間に争のない事実と認める。
二、神目中七九六番第二地内に掲示場の設置があるか
原告は右地内に町公告式条例の定める掲示場の設置がないことを前提としているのでこの点について検討するに、≪証拠省略≫を綜合して考えると、現存の掲示場が設置されている箇所は、県道路敷地内にあたるように思われる。けだし道路敷地は、路面部分のほか側面が法となっている場合は、少くとも法じりまで道路敷地に包含されるのが通常であり、現地の掲示場設置箇所と法じりの状況からみて、右結論に到達せざるをえないからである。しかし例外の場合も絶無とはいえず、現地に民有地と県道路敷地とを劃する明確な境界標が設置されておらず、右境界線を判然たらしめる資料が存在しない本件の場合、右境界線がどこであるかを確定しえないことは当然であり、前記認定も一応の推測に過ぎないのである。
三、掲示場位置の相違と告示の効力
前記認定によれば、現存の掲示場に提出した告示は、公告式条例の定めた神目中七九六番第二地内の掲示場にしたものでないこととなり、無効かというに、本件の場合必ずしもそうとのみはいえないと考える。けだし≪証拠省略≫によれば、現存の掲示場は昭和四一年六月頃に設置されたものであり、町長選挙の当時頃ここに掲示場のあることは、町民一般のよく知っていたことと推認されるのみならず、社会観念上は掲示場が神目中七九六番第二地内に設置されているとみる方が妥当のような現地の状況にあり、掲示場になされる告示が町民一般へ周知させる目的効果から考え、何等の支障も不都合もないからである。(他に公告式条例の定める掲示場三箇所があることも、周知方法の効果上無視しえないことである。)
しかも公職選挙法第二〇五条によれば、選挙の規定に違反することがあるときでも、選挙の結果に異動をおよぼす虞のある場合に限り無効とされるのであり、神目中七九六番第二地内にあるべき掲示場が、極めて近接した県道路敷地内に設置されていたとしても、このことが選挙の結果に異動をおよぼす虞があったとは認められず、決定、裁決の結論に影響するほどのことではないと考える。すなわち原告は、掲示場設置場所のことを事由に町長選挙の効力を争い、異議の申出、審査の申立をしたのであるが、原告の言分が通らない結果となり、これが公表されて町民一般の知るところとなったものであり、それは事の自然の帰結というべく、そのために原告の名誉が傷つけられたとしても忍ぶよりほかないことである。
四、損害賠償請求についての検討
(一) 原告は甲第一号証(決定書)が町掲示場に掲出告示され、また甲第二号証(裁決書)が岡山県公報に登載告示されたことにより、原告の名誉が毀損されたと主張する。しかし右決定、裁決は町選管または県選管が、法律の定めるところにより地方公共団体の執行機関としてなしたものである。そしてこれを公表告示することは、公職選挙法第二一五条の命ずることである。町選管、県選管の各委員は、右決定、裁決がなされるにいたるまでに内部的に関与しているに過ぎず、各委員について公権力の行使があるとはいえないようである。
したがって右委員らを国家賠償法にいう公権力の行使にあたる公務員といえるかについては疑点なしとしないが、右委員らに職務上の不法行為があった場合、被害者が救済を求めえないとするのも条理に反するように思われ、右委員らを公権力行使にあたる公務員に準じてよいのではないかと考える。
(二) 甲第一号証には、原告の異議申出事由の二として「神目中七九六番第二地に町の掲示場を設置するとあるが、同番地内には精査するも掲示台は設備されていない。」とあり、これに対応する決定理由(2)には「神目中七九六番第二地は農協の所有であり、従来使用中のものを昭和四一年六月八日新しいものと取替え設備してあり、掲示台のあることが認められる。」とあって、右記載は必ずしも神目中七九六番第二地内に掲示場がある旨を明言しているわけでないが、仮りにこれが神目中七九六番第二地内に掲示場があると解されるとしても、右決定書の全文を読んだ場合、その者が町長選挙の効力を争った原告の異議申出が結局棄却されたことを知りうる程度のものであって原告主張のように原告の名誉を毀損する内容の記載があるとは認め難い。
(三) 甲第三号証には不服申立事由として、前同趣旨の記載があり、これに対応する裁決理由として「神目中七九六番第二地は農協の所有地で、農協の建物が現存しており、町は農協との申し合わせにより、農協南側の道路に面したところに掲示場を設置しているのである。」との記載があるのみで、これまた神目中七九六番第二地内に掲示場がある旨を明言しているわけではなく、右裁決書の全文を読んだ者が甲第一号証の決定書を読んだ者と同様のことを知りうるに過ぎず、これまた原告主張のように原告の名誉を毀損する内容の記載があるとは認め難い。
(四) 原告は町選管、県選管の各委員らが、神目中七九六番第二地内に掲示場の設置がないのに、これがあるように認定して決定裁決にいたらしめたように主張するが、そのしからざること、決定裁決の結論に影響しないことは前記のとおりであり、町選管、県選管の各委員らに原告主張のような不法行為があったとは認め難い。
(五) 原告は被告町の吏員横部良一が偽証をしたと主張するのでこの点について検討するに、成立に争のない甲第三号証(同人の証言調書)によれば、同人は昭和四二年一二月一五日広島高裁岡山支部の公開法廷で証人尋問を受けた際、神目中七九六番第二地内に掲示場の設置がある旨の証言をしていることが認められる。しかし同証言の全体特に従前の経過などの証言内容からみて、同人が右の点について故意に偽証をしたとは認め難く、また同証言内容全体を仔細に調査してみても、同人が原告の名誉を毀損するような証言をしたとも認め難い。
五、結論
以上の次第であるから、被告らに対する本件国家賠償法に基づく損害賠償請求は、慰藉料額の当否を審究するまでもなく失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用は民事訴訟法八九条により原告の負担とし、主文のとおり判決する。
(裁判官 富田力太郎)